日本人が大切にしてきた署名文化とは

花押から学ぶ独自性(オリジナル)

独自性といえば、日本に1000年以上続く「花押(かおう)」という署名文化があります。平安時代中期に、署名した人と他人を区別するために、自分の名前を一つの図形としたのが花押の始まりで、貴族の間で広まり天皇や将軍にあてた手紙や、土地をもらう際の書面、自分が書いた作品など様々なシーンで使用されていました。

鎌倉時代以降に、武士の間で書簡のやり取りが増えてくると、武士特有の武家様(ぶけよう)という形や署名方法が生まれました。花押の始まりは名前を基に作っていました。鎌倉以降は、家系で花押の形が似ており、家柄を大事にしていた事が読み取れます。
やがて時の権力者の花押の形をまねる形が流行していきます。鎌倉には源の花押から、北条執権の花押の形、室町には足利様の花押の形、江戸時代では徳川家康の花押の形が流行しました。

花押は個人を特定するための署名です。個人の数だけ花押があるので、その形には独自性があります。武将たちの多様な形状の花押を見ていくと、署名した人の想いがこめられていることがわかります。また中にはその花押を書いた人の好みや願望・思想も読み解けるものもあります。花押は本人だけの持ち物のためにこだわりが強くなっていったのでしょう。

特に戦国時代有名武将が花押をつくるプロセスでは、自分の思いや願いをその一文字にこめてつくりました。自分はどうなりたいのか、どうあるべきなのかを考えデザインし新しい文字を作成しています。それでは有名武将の「花押(かおう)」を例に見ていきましょう。

有名な武将の花押に秘めた思い

織田信長の花押

織田信長の花押は、麒麟(きりん)の「麟」一文字をデザインしています。麒麟は1000年に一度、天下泰平の世にしか姿を見せないと言われている想像上の生き物です。
織田信長には戦国の世を自らの力によって天下を平定・統一しようという理想あったことが読み解けます。

上杉謙信の花押

上杉謙信の花押は「耳(みみ)、為(ため)可(べし)亦(また)」の四文字を一文字に組み合わせて作っています。「民の声をよく耳にし、またそれを反映すべし」という意味がこめられています。この花押からは、自分の領地を広げるためには戦うことはなく、困っている人のために戦った謙信の人柄と政治への姿勢を見ることができます。

豊臣秀吉の花押

豊臣秀吉の花押は、「悉国平定(しつくにへいてい)」の「悉」の文字が隠されていると言われています。「国平定」は「国を平静な状態にする」(秀吉が国を平和にして見せる)という想いが見られます。豊臣秀吉の花押も織田信長と同じような意味が込められているところに信長の影響を感じとれます。また、「国平定」からではなく「悉く(ことごとく)」の文から花押を作っているところが「どんな事をしてでも国を平定させる」という想いの強さも伝わってきます。

徳川家康の花押

徳川家康の花押の形は上部(天)と下部(地)に横線をそれぞれ1本ずつ入れ、その中間の空間を人と意味する「明朝体」という花押の書体です。中国で明の時代に流行った形で、徳川家康が使い始めて広く広まった事から徳川判とも言われています。徳川家康は明の太祖の花押をヒントに徳川の「徳」の旁部分の草体をもとにして、作られています。天と地をつないでいるデザインから天地人を徳川がつなぎ天下統一をめざしている徳川家康の想いが読み取れます。

独自の価値観から生きるヒントを得ましょう

いかがでしたか。戦国時代の人達は非常にユニークな花押文化を形成していたことが分ります。みなさんも戦国武将のように、未来の自分を想像してみてはいかがでしょうか。

花押をつくるときに今よりも先の未来の自分を想像しコミットすることで、自分は何を大切にしているのか、これからどうしたいのかという想いが明らかになります。そして花押を書くたびに、自分の想いを確かめ続けることになります。理想の状態に近づけていくために繰り返し思い出すという先人達の知恵は現代でも通ずるものがあります。現代の私たちにとって、人生ともに花押がある世の中は世界にも発信できる文化かもしれません。

コミットして目的が達成できたら、次の新しい花押をつくる。
花押をつなぎ、歴史をつなぎたいですね。

ご興味のある方はこちらから
http://kaou.or.jp
一般社団法人日本花押協会

文:日本花押協会 常務理事 栗原裕子

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