【開催レポート】最終回:奈良薬師寺・松久保師に直接教えを乞う「仏教」とは何か?

仏教ゼミ第5回 2018年2月21日(水)開催

昨年10月から約5ヶ月に渡り開催してきた仏教ゼミですが、お蔭様で、無事最終回をむかえることができました。旧暦の2月15日は、お釈迦様が亡くなられた日ということもあり、生い立ちから出家、そして悟りを開いてから、「涅槃図」に描かれている亡くなる時の様子まで、その生涯を振り返りながらお話をお伺いすることができました。

お釈迦様の本名は、ゴウタマ・シッダールタ(Gotama Siddhattha)。
目的・目標を最も成就させるのに通じた人という意味があるそうです。

お釈迦様は、紀元前624年4月8日に東インドのヒマラヤ山脈の麓、現在のネパール王国の領土内に位置するルンビニーというところで生まれました。父は釈迦族の国王スッドダーナ、母はマーヤ夫人であったと伝えられています。

釈迦族の王子として生まれ育ち、19歳でヤショーダラ王女と結婚し、一児をもうけています。裕福で何不自由なく暮らしていたお釈迦様ですが、唯一得られなかったものがあるとしたら、母親の愛情と松久保師はおっしゃいます。お釈迦様は、生まれて7日後に母親と死別し、継母に育てられました。

最終回は、そんなお釈迦様の生涯を紐解いていきます。

お釈迦様が出家した動機とは?

お釈迦様は、生まれてすぐ7歩歩いて右手で天をさし、左手で地をさして「天上天下唯我独尊(てんじょうてんげゆいがどくそん)」とおっしゃったと言われています。この世で一番尊いのは自分の命である。誰もがみんな、ただ一人の尊い存在であるという意味です。
余談ですが、松久保師は、これを歌で表しているのがSMAPの「世界で一つだけの花」とおっしゃっていました。

お釈迦様が出家するきっかけとなった「四門出遊」というお話があります。ある時、お釈迦様がお城の東門から外へ出た時、老人に出会います。次に南門から外へ出て病人と出会い、さらに西門から外へ出て死人を見て衝撃を受けられた。そして最後に北門から外へ出た時、ハツラツとして楽しそうにしている出家行者に出会い感銘を受けたと言われています。

お釈迦は、「老・病・死」という人間として避けられない「苦」に出会い、思い悩みました。一方、出家行者のようにハツラツと生きている人もいる。自分もそんな風に生きてみたいと思い、何不自由ない生活を捨て、29歳で出家したと言われています。

お釈迦様が目指した「涅槃(ねはん)」とは?

出家してから7年間の苦行を経て35歳で悟ったと言われています。なぜ、苦行をしたのか。それは、「涅槃(ねはん)」と呼ばれる悟りの境地を得たかったから。涅槃とは、サンスクリッド語でニルヴァーナ(nirvāna)と呼ばれ、仏教において、煩悩を滅して悟りの智慧を完成した境地のことを指します。

「涅槃」の捉え方は、小乗仏教(上座部仏教)と大乗仏教でも違うと言います。
小乗仏教では、灰身滅智(けしんめっち)と言い、自分の身体が灰にならないと、悟りの智慧は得られないとされています。つまり、悟るためには死なないといけないということです。

悟りの境地とは、それくらい簡単に得られるものではない。その考え方も確かに間違いではないが、お釈迦様は、生きている中で悟りの境地をちょうだいしなければ意味がないと考えました。そういう考え方に則って生まれたのが大乗仏教です。

善いものから善い結果が生まれる(善因善果)、悪いものから悪い結果が生まれる(悪因悪果)のは当たり前。しかし、善いものから「楽」が生まれ(善因楽果)、悪いものから「苦」が生まれる(悪因苦果)という価値観の転換こそが、「涅槃」と言われる境地ではないのか。

小乗仏教の考える涅槃は「無余依涅槃」。肉体も煩悩も滅した涅槃。大乗仏教が考える涅槃は「有余依涅槃」。肉体が存在している涅槃。つまり、煩悩を抱えながらも生きている中で見出す悟りの境地。お釈迦様は、これを目指したのです。

かたより、とらわれ、こだわってしまうのが人間

お釈迦様が、ブッタガーヤの地で7年間行った苦行は、断食だったと言われています。自分の身体をとにかくいじめ倒し、痩せ細り血管が浮き出る姿になるまで断食をし、最後フラフラになりながら川辺を歩いていた時に、ある一人の少女に出会います。その少女にミルク粥をいただき、生気を取り戻したと言われています。その少女の名は「スジャータ」。日本では、コーヒーに入れるミルクで有名な会社の名前になっています。

スジャータにミルク粥をいただいた後、お釈迦様が瞑想を行い、12月8日の明けの明星に悟ったと言われています。苦行のような極端なことをすることが大事なのではなく、もっと大事なことは命の尊さであり、真ん中を行くこと。つまり、「中道(ちゅうどう)」であること。

薬師寺では「中道」を、わかりやすく「かたよらない」「こだわらない」「とらわれない」と言っています。苦しいだけではない、楽だけでもない、そして人間の中にある様々な心の世界をすべて受け入れながら、「中道」を生きていくことが大事である。

松久保師の師匠である高田好胤(故)さんは、とてもこだわりの強い人だったそうです。毎年11月に伊勢神宮で行われる新嘗祭という収穫祭までに、絶対にその年の新米を食べなかったそうです。講演などに呼ばれ、他で食事をする時は、旧米を持ち歩くほど徹底していたそうです。

そんな師匠が、いつも講演で「かたよらない」「こだわらない」「とらわれない」心が大事と伝えている。ある時、弟子の一人が、師匠ほどかたより、こだわり、とらわれている人はいないと、本人に言ったそうです(笑)

すると師匠は、「かたよってるからこそ、こだわるってるからこそ、そして、とらわれているからこそ、この言葉が言えるんだ」と言われたそうです。

お釈迦様が切り開いた「中道」という道。
それは、人間とは、かたより、こだわり、とらわれてしまう生き物だから。
だからこそ、「中道」を目指す。

ものごとには必ず終わりがある。終わりがあるから美しい。

お釈迦様は、35歳で悟ってから亡くなるまでの45年間、いろんな町で教えを説きました。しかし、どこでも歓迎された訳ではなく、時に石を投げられ追い返されることもあったそうです。そんな目にあっても、お釈迦様は、山の上からその町を眺めた時、何とも言えない穏やかな笑顔で、「善哉(よきかな)」(美しいな)とおっしゃったそうです。

弟子は、お釈迦様に、何が美しいのですか?と尋ねると、
「いろんな人間が、いろんな場所で生きているけど、人間には必ず最後がある。どんなことにも必ず終わりがある。終わりがあるからこそ美しいんだ。そういう人生を歩んでいくからこそ尊いんだよ」
とお釈迦様はおっしゃったそうです。

この一説はいろんな解釈があるが、松久保師は、この話を読むといつもジーンと来るものがあるとのことです。

皆様もいろんなところで、いろんな生き方をしておられることでしょう。時に迷い、悩みながら。お釈迦様も悟ってから亡くなるまでの45年間、きっと迷いもあったと思う。しかし、自分の悟りを信じて、亡くなる寸前まで、どこの町でも「中道」の心を大切に、教えを説いたと言われています。石を投げられ嫌な思いをしたことも、それはすべて「空」である。

今、目の前に人生の終わりが迫ったら、これまでの人生のどんな出来事もかけがえがなく、尊いものに感じるのではないでしょうか。

最後に

お釈迦様は、亡くなる少し前に「自灯明」「法灯明」の教えを説きました。他者に頼らず、自分を拠りどころとし、教えを拠りどころとして生きなさいという意味です。松久保師は、「自灯明」は自分を背負って生きることとおっしゃっていました。自分を背負って悟らなければならいと。よそから借りてきたもので装っても、それは所詮自分のものではないと。

人はほがらかな気持ちになれば、ほがらかな顔になります。人の本当の美しさは、その人の内面から出てくる美しさです。そんな顔でいるために、毎日どんな生き方をすればいいのか、お釈迦様が提唱されたのが「あるがまま」という生き方です。
良いとか悪いとかではなく、すべてを受け入れ、包み込み、抱きかかえて生きること。その価値観が「中道」を意味しているのではないかと。

これまで、5回に渡りご参加者の皆様とともに仏教の世界に触れてきました。煩悩まみれであっても、それでもいいんだよと、まるっと優しく包み込む仏教の懐の深さと、慈悲深さに包まれ、とても心温まる時間でした。

昨今、人生100年時代などと言われ、一人ひとりの生き方やキャリアの描き方が、これまで以上に問われる時代です。そんな変化の激しい時代に生きる私たちにとって、仏教の教えには、今を生きるヒントがたくさん隠されていたのではないでしょうか。

ご参加者の皆様からは、早くも松久保ロスなんて声があがっておりますが、まさに、自分を拠り所とし、教えを拠り所として、あるがままの心を大切に、尊い人生を一歩ずつ前に進めていけたらなと思っています。

松久保師をはじめ、クミシュランとご参加者の皆様と多くのご縁からいただいたかけがえのない時間に心から感謝いたします。

本レポートが、少しでも皆様の今を生きるヒントとなれば幸いです。

※これまでの開催レポートはこちら




作成者:和の大学 事務局 伊藤律子

関連記事

おすすめ記事

  1. 知っておきたい日本語(1):和を以て貴しとなす

    「和を以て貴しとなす」とは誰が言った言葉? この言葉は、ユリウス暦604年に聖徳太子(厩戸皇子)が…
  2. 知っておきたい日本語(2):ありがとう

    「ありがとう」を漢字で書けますか? 「ありがとう」という言葉、よく使いますが、皆さんは漢字で書けま…
  3. 知っておきたい日本語(3):こんにち、わ?は?

    「こんにちは」「こんにちわ」、どちらが正しい? 先日、突然友人に尋ねられました。 「こんにちは」…
  4. ビジネスパーソンにも役立つ「禅の教え」①

    みなさんは、「禅」と聞いて、どのようなことを思い浮かべますでしょうか? スティーブ・ジョブズが…

「和の大学」メールマガジン





企業名
お名前
Mail

話題の記事

  1. 武士道とは 旧5千円札でも有名な新渡戸稲造が1899年にアメリカで英文にて発表した「武士道」。 …
  2. ※本ゼミは、お蔭様ですべての回を終了しました みなさんは、「仏教」と聞くと、どんなことをイメー…
  3. 仏教ゼミ第3回 2017年12月20日(水)開催 全5回に渡る仏教ゼミも、折返しとなる第3回目を先…
  4. 仕事や家事にばかり時間を取られ、ストレスが増しているなら、生き方そのものを変えてみてはいかがだろうか…
  5. 人事担当者と僧侶が共に考える「働く」とは何か? -「働き方改革」の本質をブッダの教えをもとに学ぶ-…
ページ上部へ戻る